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  • 執筆者の写真鈴木厚本人

好色一代男よんだ。

井原西鶴「好色一代男」(1682年初版)読んだ。

7歳から61歳までの54年間に交わった女は3742人、男色の相手は725人というスーパープレイボーイ世之介の一代記。

文章のあちこちにちりばめられた「古今集」「新古今」「徒然草」「伊勢物語」や謡曲等のもじり、縁語、掛詞、洒落など多数の技巧的文章が難し過ぎて新潮古典文学集成で震災前に一度読みかけて挫折した。

今回はより注が平易で多く、全文現代語訳がある小学館日本古典文学全集井原西鶴集1でなんとか読めた。(暉峻 康 校注)

 直接的に露骨な表現は少ないのだが、それでいて体液が臭うような生々しい男と女、時に男と男の交わりが目にうかんだ。そして、それが王朝的なのか中世的なのか古雅な雰囲気の中にはみ出さずに自然に納まっている感じがするのは不思議だった。特に前半。

背景に時代劇でみるような江戸時代の街や山野の風景、遊郭の雰囲気も。

全54章(各章世之介1歳ずつ、54は源氏物語54帖にちなむと)がほぼ1章で完結した短編を連ねた体裁で一章一章は短い。

小さい入れ物に濃厚且つ多様なイメージ、ニュアンスぎっちり詰まっている密度のある文学作品の集合体と感じたが、滑稽味も軽みも少なからずある。

 個人的には特に、早くに色気づいた幼少期から放蕩が過ぎて19で勘当されて身過ぎ世過ぎに、実家の京都を離れ東北から下関まで各地を彷徨う前半が面白かった。

34歳で父親から巨万の富を相続する以前である。

 例を一つあげるとすると世之介27歳〜29歳(珍しく3章続き)の話。

鹿島神宮のインチキ神主になって適当なご託宣を触れつつ女遊びをしながらたどり着いた宮城塩竃明神。

そこの巫女を亭主がいるとしりながら手籠めにしようとしたところ、激しい抵抗に遭う。その最中、亭主に見つかり罰として片鬢をそられて放免される。中世風の強姦の刑という。女にはキズが無かったようで表沙汰にせず。

次章では懲りずに遊びほうけながら信州追分にたどりつくが、おりから近くで強盗殺人があり検問中。片鬢がないことで嫌疑を受け収監される。

隣の牢には亭主が嫌いで出奔してき優しげな女が収監されており恋仲になるが物理的に事にはおよべない。

次章、将軍家法事の特赦ででめでたく二人手に手をとり出獄するが、直後に女の一族に見つかり、男女同伴であることもあり二人は激しく折檻される。

夫の離縁状を得ずに出奔した女があれば、お上に申し出た上、親兄弟、親族 、町村役人が時効無く捜し出さなくてはならない。

中世以来、離婚の権利は男にしか無かったという。

世之介は気絶するも一命を取り留めるが気がつけば女の姿は無い。

一週間も世之介は必死に女を捜すが、夜、墓を掘っている農夫二人をみつける。

聞けば、美女の死体の髪と爪を京都、大阪の遊郭に売るという。

女郎が馴染みの客に真心の証として生爪や髪を贈るらしいが、何人ものお大尽にばらまく手管のためと。

見れば愛しいあの女。涙ながらに死体に抱きつき「連れてこなければ」と懺悔する世之介の言葉に遺体は一瞬目を開きにっこりと笑む。

それを見て、世之介は自害を試みるが農夫に止められる。という話。

希代の無責任男世之介には珍しい純情さ。

タブーを大胆に破る女との出会いは初めてということで、その秘めたる野生に本気になったか、まだ情交が無かったことからか。

 前述のように後半に入り世之介は父親の財産を相続して億万長者になる。2万5千貫目(注釈書初版出版1971年で125億円相当と)。(世之介34歳)

日本各地を回り、素人やそこらの蓮葉女、下級遊女、ときには若い男娼等様々な層と交わる前半とは違い、新町(大阪)、吉原(江戸)、島原(京都)の最高位の女郎=太夫(たゆう)との話が殆どの後半はやや単調。

その分、より文章が技巧的になり、また聞いたことも見たこともない衣装や調度品、香等グッズの名称も多くなり(数えたわけではないが)読みづらくなった。

特に各章の導入部。

でも、再読するうちに引き込まれる章も。

例えば、何人もの客を要領よく自分こそ一番のお気に入り客と思わせる手管なく、世之介と伝七と言う二人の粋な超お大尽2人のみを心から好いて公然と公平に接する正直な太夫=新町の野分。

その本気の閨事の描写はかなり生々しい。ちょっと長いが、以下一部引用。

有名な箇所なのか某サイトにも引用されていた(世之介48歳。)

生まれつきての仕合わせ、帯びとけば肌(はだへ)うるわしく暖かにして、鼻息高くゆひ髪の乱るるををしまず、枕はいつとなく他になりて、目付きかすかに青み入り、左右の脇の下うるほひ、寝まき汗にしたし、腰は畳をはなれ、足の先かがみて、よろずにつけてわざとならぬはたらき、人のすくべき第一なり。また笑しきは、折々なく声鵺(ぬえ)に似て、蚊帳の釣手も落つる所を九度(ここのたび)までとつてしめ、その好(すき)いかなる強蔵(つよぞう)も乱れ姿になつて、短夜の名残、さて火をともし美しき顔を見るに、絵に書きし虞氏君はものいはず、「さらばや」といふその物ごし、あれはどこから出る声ぞかし。(折々なく声=閨房での声、虞氏君=虞美人)

訳)生まれついての幸せは肌が美しく暖かで、鼻息が高く、結髪の乱れるのもかまわず、枕はいつとなくはずれてしまい、目つきかすかに青み入り、左右の脇の下うるおい、寝巻は汗に濡れ、腰は宙に浮き、足の指先屈み、すべてにつけて自然な働きは、人の好くべき第一の条件である。そのうえにまだおもしろいのは、折々泣く声が鵺のようで、蚊帳の釣手とともに男が落ち入る所を九度まで押さえつけ、その好色さにはどんな強い男も乱れ姿になって、さて短夜の名残、灯をともして美しい顔を見ると絵に描いた虞氏君は物をいわないが、この女は「さらばや」と言う。その声の優しさ、あの時の泣き声は一体どこから出るのだろう。(訳は小学館古典文学全集井原西鶴集1より)

最終章では、61歳になり急に老けた世之介はお宝を捨て残った金6千両(=1億8千万円1971年当時)京都東山に埋め、女護島という女しかいないという架空の島を目指して命知らずの舟旅に出発する。

舟は名付けて好色丸(よしいろまる)。

遊び仲間6人とともに強精剤、媚薬、性具、堕胎薬、枕絵、女郎達との想い出の品等満載。何故か、伊勢物語200部も。

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